空也上人と私

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「ベーカリー空也」 誕生秘話

アーティスト・井上涼さん

歌とアニメで著名な美術作品を紹介するテレビ番組『びじゅチューン!』のレギュラー放送は2014年に始まりました。空也上人立像を題材として取り上げたのは2015年、パン屋の店長である空也上人が、阿弥陀仏パンを持って全国行脚をするという設定で「ベーカリー空也」という曲をつくりました。制作のための当時のメモを見返しますと、かなり悩んだ末に空也上人をパン屋さんに仕立て上げていたことを思い出しました。




新作を考える際には、まず、作品の写真を手元に置いて、シャープペンシルでその作品をスケッチしてみることが多いです。作品を書き写してみると、細部に様々な特徴があることに気がつくからです。例えば空也上人立像をスケッチしてみると、左手に握った鹿角杖の握り加減や衣のはだけ具合にも気づきました。それから、過去にその作品を取り上げたテレビ番組があれば、見てみるようにしています。その作品がどのようなイメージで捉えられているのかを把握するためです。番組内で挿入されているBGMも大きな手掛かりになりますね。こうした情報を元に、自分の作品ではみんなが思うようなイメージに馴染ませていくのか、それとも変化をつけてみるのか、制作のスタンスを決めていきます。

空也上人立像は強そうにみせることなく写実的で、ポーズも作った感じがしない。まるで歩いているところをスナップショットで撮ったかのような印象を受けました。どういう意図でこんなにリアリスティックな空也像ができたのかを不思議に思いました。しかし口からは阿弥陀仏が出ていて、そのギャップが強烈で面白いですね。普通じゃなく作ることで、人々を引き付ける像にしたかったのではないでしょうか。顔の表情は恍惚としていて、どこかに意識が飛んでいるようにみえます。無心な感じを彫刻から受け、「無心でおこなうもの」というところから「こねる」という行動を連想し、「パン屋さん」という設定が生まれたのだったと記憶しています。健脚であることの描写もしたかったので、独特なこね方をするという設定を加え、全国行脚をした遊行僧であるという情報も歌詞に含めました。


今の時代の人たちに面白いと思ってもらえるよう、最新のドラマや映画、アニメなどを積極的に見て、流行と時代の気分のようなものを掴むようにしています。
美術作品とのファーストコンタクトが「びじゅチューン!」になるお子さんもたくさんいますから、そのことに責任を持ちつつも角のとれた作品にならないよう、これからも面白いと思ってもらえる作品をつくっていきたいです。アニメの内容はすぐに忘れてしまってもいいので、頭の中に「空也」や「南無阿弥陀仏」といった言葉が残って、ふと気になった時に調べてみようというアクションにつながればいいなと思っています。「ベーカリー空也」をきっかけに、空也上人に興味を持った方々が、実際に本物を見にいくきっかけになったら嬉しいです。

「ベーカリー空也」の視聴はこちらから(NHKどーがレージ)



井上涼(作詞・作曲・うた・アニメ制作)

1983年兵庫県生まれ。
映像(アニメ/実写)、イラスト、漫画、インスタレーション、パフォーマンスなど幅広い制作活動を行い、作品の作詞、作曲、アニメ、歌を全て自身が手掛ける。金沢美術工芸大学卒業。卒業制作「赤ずきんと健康」でBACA-JA2007映像コンテンツ部門佳作受賞。NHK Eテレ番組『びじゅチューン!』制作、毎日小学生新聞「美術でござる」連載。主な展覧会に「井上涼展 夏休み!オバケびじゅチュ館」(霧島アートの森 2018年)、「トーハク×びじゅチューン!なりきり日本美術館」(東京国立博物館 2018年)、「井上涼展 夏休み!BYOBUびじゅチュ館」(MOA美術館 2019年)、「井上涼展 炎のアツアツびじゅチュ館」(MOA美術館 2020年)、「トーハク×びじゅチューン!なりきり日本美術館リターンズ」(東京国立博物館 2020年) など。